睡眠時無呼吸と心臓・血管の病気について

1. 睡眠時無呼吸症候群とは

 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome; SAS)は、睡眠中に呼吸が一時的に止まってしまう、もしくは浅くなる状態が繰り返される病気です。多くの場合本人が気づかないうちに起こって、睡眠の質を大きく下げることがあります。
 この病気は「いびき」や「寝ているときの呼吸が止まっている」と家族に言われて気づくことも多く、放置すると日中の眠気、集中力低下といった日常生活の障害だけでなく、心臓や血管の病気と深い関係があると考えられています。


2. 呼吸が止まるとはどういうことか?

 睡眠中の呼吸は意識とは関係なく、脳の呼吸中枢が体の状態に応じて調整しています。しかし睡眠時無呼吸症候群では、以下のような状態が起こります:

 無呼吸

10秒以上、息を吸おうとする空気の流れが完全に止まる状態です。これは睡眠時無呼吸症候群で最も特徴的な現象です。

 低呼吸

 10秒以上呼吸による気流が低下し、十分な空気が体に入らず血中酸素濃度が低下した状態です。

 これら無呼吸低呼吸が睡眠中に繰り返し起こると、血液中の酸素濃度が下がり、体にストレスがかかります。結果として、一時的な脳の覚醒状態とそれに続く睡眠状態が繰り返され、質の良い深い睡眠が得られなくなっていきます。


3. 睡眠時無呼吸の2つのタイプ:OSA と CSA

睡眠時無呼吸症候群には大きく2つのタイプがあり、それぞれ原因や治療の考え方が異なります。


 ① 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:Obstructive Sleep Apnea)

 最も一般的なタイプで、のど(上気道)が物理的にふさがってしまうことで起こります。通常イメージされる「睡眠時無呼吸症候群」はこのタイプです。OSAがSASと同義のように扱われることもあります。

 人が眠ると、のどの筋肉が緩みます。特に舌の付け根や咽頭周囲の筋肉が下がってくると、空気の通り道が狭くなり、呼吸が妨げられます。やがて完全に塞がってしまうと、呼吸が止まります。
 また、肥満などで首周りに脂肪が多い人や、のどの解剖構造(扁桃が大きい、顎が小さいなど)が影響している人は、気道が狭くなりやすく、このタイプのリスクが高いと考えられています。


 ② 中枢性睡眠時無呼吸(CSA:Central Sleep Apnea)

  OSA とは異なり、上気道が塞がっているわけではなく、脳から「呼吸するように」という指令が一時的に弱くなることで起こります。
  このタイプは一般の人では珍しいとされていますが、心不全や脳血管障害などがある人で比較的みられやすいことがわかっています。


4. SASの重症度

 OSAにおいては、1時間あたりに生じる無呼吸と低呼吸の数(apnea-hypopnea index:AHIといいます)が5~15回を軽症、15~30回を中等症、30回以上を重症と判定されます(CSAの重症度は明確には定められてない)。重症であるほど、生命予後が悪くなることが示されています。

5. SAS病態のしくみ ~ なぜ体に悪いのか?

 睡眠時無呼吸症候群では、呼吸が止まるたびに血液中の酸素濃度が下がったり(低酸素状態)、心臓や血管に負担がかかるような状態が繰り返されます。具体的には以下のような変化が起こるとされています:


 ❶ 断続的な低酸素血症

 無呼吸が起きるたびに、血中の酸素が低下します。これが何度も繰り返されることで、体の細胞や血管が慢性的なストレス状態になります。


 ❷ 自律神経系の負荷

 正常な睡眠中は副交感神経(リラックス時に働く自律神経)が優位になり、その結果血圧や心拍数が下がることが理想的です。しかし睡眠中の呼吸障害は、交感神経(緊張状態を作る神経)を活発にさせてしまいます。重度の睡眠時無呼吸症例では夜間のみならず日中も交感神経の緊張状態が続き、「血圧が上がりやすい」「心拍が乱れやすい」といった影響を受けます。


 ❸ 大きな胸郭内圧の変動

 OSA では気道がふさがれた状態でも呼吸をしようとして大きな力が働きます。その結果、胸の中の圧力が大きく変動し、それが心臓に余計な負担をかけることがあります。


 ❹ 炎症や酸化ストレス

 繰り返される低酸素と再酸素化(酸素が戻る過程)によって、身体の中で炎症や酸化ストレスが起こりやすくなります。これらは血管内皮の機能を低下させ、心臓病や脳血管障害のリスクを高める要因と考えられています。

 ❺ レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の活性化

 OSAによる低酸素は、これら高血圧を誘発するホルモン系を活性化させるとされています。


6. 睡眠時無呼吸症候群と心臓・血管の病気

 睡眠時無呼吸は上述の断続的な低酸素状態、自律神経の負荷、胸腔内圧の大きな変動、酸化ストレス(と血管内皮障害)を介して、以下の心血管疾患と関連するとされています。

 ① 高血圧

 OSAは2次性高血圧のなかで代表的な成因の1つとされています。難治性高血圧や夜間/早朝高血圧とOSAとの関連が報告されています。

 ② 心不全

 心不全とは心臓のポンプ機能が弱まった状態ですが、CSA が心不全患者でしばしば見られ、また睡眠時無呼吸が心不全を悪化させる可能性があります。
 OSAは、左房拡大・左室肥大・左室拡張障害といった心臓リモデリングとの関連が報告されています。

 ③ 心房細動などの不整脈

 重症の睡眠時無呼吸は、夜間の不整脈リスクを2~4倍高めることが示されています。
 OSAによる自律神経への負荷・間歇的低酸素に加え、胸腔内陰圧化により心筋壁内外の圧格差上昇(心臓が外向きに引っ張られる)、上半身への血液再分布などが心臓の構造的変化を誘発し、不整脈が出やすい状態へと進行するとされています。

 ④ 冠動脈疾患・狭心症・心筋梗塞

 OSAが重症なほど、冠動脈の動脈硬化の程度が強いことが報告されています。
 40~70歳の男性においては、重症OSAは冠動脈疾患の発症リスクを高めることが示されています。

 ⑤ 脳卒中

 SASによる交感神経緊張により血圧上昇・心房細動誘発・低酸素による多血症、メタボリックシンドロームの合併などが脳卒中発症と関連すると考えられています。


 これら疾患と睡眠時無呼吸とは、単純な因果関係ではなく複雑な生体反応の積み重ねと考えられていますが、睡眠時無呼吸症候群を治療することでこれらの負の連鎖を断ち切る可能性があると考えられている点が重要です。


7. 診断と治療について

 ❶. 問診

 いびき、日中の眠気、家族による無呼吸の指摘などを確認します。眠気の指標としてエプワース眠気尺度などが用いられます。ただし、循環器疾患(高血圧や心不全など)を持つ患者さんは自覚症状を感じにくいため、症状がなくても検査が考慮される場合があります。

 ❷. 簡易モニター検査(スクリーニング検査)

 自宅で指先や鼻にセンサーをつけて寝るだけの簡単な検査です。気流や酸素飽和度(SpO2)を測定し、SDBの疑いがあるかを調べます。精密検査への振り分けを行いますが、この時点でAHI40以上の重症度であればCPAP導入となる場合もあります。

 ❸. 睡眠ポリグラフ検査(PSG:精密検査)

 主に医療機関で実施し、脳波、眼電図、筋電図、心電図、呼吸状態などを同時に一晩記録します。睡眠の深さ(睡眠段階)や睡眠の分断化の程度、無呼吸の正確なタイプ(閉塞性か中枢性か)を判別できます。

 ❹. 治療

  ✓ 生活習慣の是正と運動

減量: 肥満はOSAの最大のリスク因子であり、10%の体重減少によりAHI(無呼吸低呼吸指数)が26%改善するという報告があります。
・禁酒・禁煙: 就寝前の飲酒は上気道開大筋を弛緩させ、無呼吸を悪化させます。喫煙も上気道の炎症を招くため、禁煙指導が推奨されます。
・運動: 体重減少がなくても、運動療法自体がAHIを改善させる可能性があります。
・体位療法: 仰臥位(あお向け)で無呼吸が悪化するタイプの方には、側臥位(横向き)で寝るような指導が行われます。


  ✓ 口腔内装置(マウスピース:OA)

 下顎を前方に固定することで気道を確保する装置です。
 適応: 主に軽症から中等症のOSA患者、またはCPAPが継続できない症例に適応があります。
 利点: CPAPに比べて小型で持ち運びが容易であり、使用時間は長くなる傾向があります。
 注意点: 顎の違和感や咬合の変化といった副作用が生じることがあるため、歯科医師による定期的な管理が必要です。

   ✓ CPAP(持続陽圧呼吸療法)

 OSA の標準的な治療法のひとつが CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法 です。これは寝ている間にマスクを装着して空気を適度な圧力で送り、気道が閉塞しないようにする方法です。治療により下記の効果が期待できるとされています:

  • 日中の眠気の改善
  • 治療抵抗性高血圧の降圧
  • 心不全患者での心収縮力改善
  • カテーテルアブレーション後の心房細動再発抑制

 体重減少と CPAP を組み合わせると、これら効果がさらに大きくなるという報告も示されています。

 しかし、治療効果を最大限引き出すためには 装置の継続した使用(アドヒアランス)が非常に重要 であり、使用時間が長いほど(4時間以上が目安)良い改善が得られると報告されています。
 日本の保険診療においては、日中の傾眠・起床時の頭痛などの自覚症状が強く日常生活に支障を来している症例であることがCPAP導入の適用条件とされているため注意が必要です。


8. まとめ

 睡眠時無呼吸症候群は本人だけでなく、ご家族や周囲の方が気づく場合も多い病気です。
 「いびきがひどい」「日中どうしても眠い」「夜何度も目が覚める」と感じたら、いちどご相談ください。

参考文献
・J Am Coll Cardiol. 2017 Feb 21;69(7):841–858
・日本呼吸器学会:睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン2020
・日本循環器学会:循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン2023年改訂版
・Circulation. 2021 Jul 20;144(3):e56-e67
・Hypertension 2021; 77:1047-1060